筑坂人Vol.5(鹿間さん)

筑坂人鹿間さん

『筑坂人』第5弾では、鹿間謙伍さんにインタビューを行いました。鹿間さんは筑坂を卒業後、筑波大学理工学群工学システム学類で学び、現在は、大学3年生の時に仲間と起業した会社のCTOを務めていらっしゃいます。

今回のインタビューでは、筑坂での高校生活や筑坂で身に付けたスキルなどについてお聞きしました。それでは、第5弾の筑坂人のレポートをお届けします。

まずはじめに、どうして筑坂を志望したのか、筑坂を選んだ理由を教えてください。

僕は中学生のころから自転車が好きで、自分で改造もしていました。だから、機械について学ぶことができて、自転車競技部のある筑坂がとても魅力的に思えました。また、様々な分野を学べる筑坂が面白そうだとも感じていました。現在、自転車競技部はなくなってしまったそうで、残念に思います。

そうですか。では、そんな筑坂で、鹿間先輩はどんな科目を選択していましたか。また、科目選択上の注意点があれば教えてください。

もともと機械の勉強がしたかったので、迷わず工学システム・情報科学科目群を選択しました。科目選択上、注意した方がいいことは、周りの人に流されず、いかに自分の将来に繋げる科目を選択するかということです。例えば、大学受験に必要な難しい科目を選択せず、受験に必要のない科目を安易に選択して、受験のときに苦労した人もいます。だから、科目選択をするときは人に流されないことが大切だと思います。

自分の未来を思い描き、履修科目を選択できることが総合学科の特徴です。

自分自身の選択をするということですね。それでも、自分の興味・関心を見つけられないときはどう進めばよいのでしょうか。また、将来を考える際、何が大事ですか。

自分が進みたい方向がわからない、あるいは見つけられないことは悪いことではないと思います。それだけ自分の専門性を広げていける可能性があるということだからです。大切なのは、自分の興味の方向性がある程度理解できているということです。それが理解できていれば、最初から1つの専門性に絞らずに、興味の範囲を広げて学んでいけるからです。その結果、将来的に2つ以上の専門性を獲得することができるかもしれません。1つの専門性ではなく、2つ以上の専門性を持つことは、将来社会で活躍していく上で大変有利です。

自分の興味・関心を見つけるためには、自分が日々行っていることに、もう1つプラスアルファの行動を取り入れてみるとよいと思います。いつもの行動を少しステップアップすることで視野が広がり、先が見えてきます。すると、自分の興味・関心が見つけやすくなります。

将来を考える時、大事なことは、自分の中で譲れない価値観が何かを知っておくことです。自分がどうしたいかという価値観は人ぞれぞれ違います。それを知っておくことは、自分の将来の働き方や生き方に繋がっていきます。

アドバイスありがとうございます。自分のこだわりは何かを知っておくことが大事ということですね。では、筑坂で得たスキルのうち、役に立っているスキルは何かありますか。

批判的思考です。物事を否定的、批判的に捉える能力は高校生活の中で培った気がします。僕らの企業は、大企業のように多額のお金を投入できるわけではないのですが、ただそれでも、大企業のように大きくならなければいけないという不利な会社です。その中で、大企業がお金を投入したがらず、かつ、今後伸びていく市場の掛け算でサービスや製品を作り、自分たちの会社を大きくしていくことが必要です。それを考えるにあたり、批判的思考がとても大切になってきます。従って、高校3年間で得たスキルの中で今も役に立っているのは、批判的思考力だと思います。

では、そんな鹿間先輩にとって筑坂はどのような場所でしたか。

自分の「視座が上がる場所」でした。僕は同級生や後輩よりも先生方と接することが多く、先生方が考えていることを聞いたり、授業外で数学の研究を行ったり、卒業研究を外部の人に見せて指導を仰いだりと、筑坂での生活を振り返ると「視座が上がる場所」という言葉が適切だと思います。

ちなみに、鹿間先輩が選んだ筑坂での卒業研究のテーマは何ですか。

タイトルは詳しく覚えていないけれど、「微小重力環境における噴流の挙動解析」とか、そんなタイトルだったと思います。何をやっていたかというと、微小重力環境って国際宇宙ステーションとかの宇宙環境で「霧吹き」を吹いたときに霧はどういう動きをするのか、というのを物理的に解析して実験をするというものでした。

鹿間先輩らしいテーマですね。その卒業研究に取り組んで、何が得られたと思いますか。

卒業研究そのものというよりは、プレゼンテーションの部分が一番僕の中では結果として重要だと思っています。自分の今一番興味のあることをいかにして分かりやすく伝えるのか、かつ、驚きを与えるような伝え方をひたすら模索するという意味では、プレゼンテーションの力、伝える力、あるいは、まとめる力が結果として得られたものだと思います。

 

筑坂と大学の卒業研究ではどんなところが違いましたか。

まず、筑坂の場合は研究テーマを自由に選ぶことができると思いますが、大学の場合は研究室の指導教員に研究テーマを認められないと研究を行うことができません。次に、研究をしていくときに異なる点は、大学の方がより論文として正確なものを求められるということです。研究結果の検証の仕方が有益であることを証明するために、妥当な検証方法が何かを何日もかけて探ります。これら3つのことが決定的に筑坂の卒業研究で書く論文とは異なる点です。しかし、論文としてまとめることやプレゼンテーションを効果的に行うことは高校でも大学でも変わりません。

貴重なお話をありがとうございます。次に、大学についてですが、大学の入試方法は何でしたか。また、合格するために、どのような勉強をしましたか。

筑波大学は一般入試と推薦入試とAC入試という自己推薦型の入試があるのですが、僕はAC入試で大学へ入りました。当時の筑波大学理工学群のAC入試は、書類選考と面接で、面接の中に口頭試問があったので、ある意味筆記試験も含んでいるような面接でした。受験を突破するために、高校時代に何をやって、どんな結果が出て、どう振り返ったかを、簡潔に分かりやすく、かつ、論理的な展開で1つのストーリーにまとめました。夏休みに毎日何時間も取り組んで、A4版5枚にまとめ上げました。面接練習は1,2回やっただけなのですが、口頭試問では、例えば「Xの微分が2Xになる理由を原理的に説明せよ」といった問題が出て、試験官の教授3人の前で黒板を使って説明しなければなりませんでした。その練習は先生方に指導していただきながら何度も何度も行いました。

鹿間先輩の前向きな姿勢に敬意を表したいです。では、大学受験をする上で最も役に立った活動は何でしたか。

卒業研究と、スタンフォード大学のE-Japanという教育プログラムに参加し、最後までやり切ったことです。

 

進路選択に楽しさは必要でしょうか。

僕は進路選択に楽しさは考慮しませんでした。僕が進路先を決めるにあたって考慮したことは、「自分がやりたいことに最も近いことができるかどうか」のみです。だから、それが楽しいかどうかはあまり重要ではなかったと思います。しかし、人によって価値観が違うので、「楽しいかどうか」に価値を見出す人もいると思います。

鹿間先輩がこれまで経験したなかで最も高い壁だと感じたことはどんなことですか。また、そういう時に心掛けたことは何でしたか。

僕は大学3年生の時に起業しましたが、大学4年生の時に卒業研究をやらなければいけなくて、会社を運営しながら卒業研究を進めるのは本当に大変でした。朝から晩まで会社の仕事をこなし、夜と土日は卒業研究に取り組む毎日でした。特に、卒業研究に力を入れなければならなかった9月から2月の前半までは体力的に物凄くきつかったです。それをどう乗り越えたかというと、時間やリソースには限りがあるので、それらを有効に使うために、やらなければならないことに優先順位をつけて取り組みました。そして、苦しい時期を何とか切り抜けました。

鹿間先輩は大学3年生の時、どうして起業しようと思ったのですか。

大学2年生のときに、国際統合睡眠医科学研究機構という筑波大学の研究機関で技術スタッフとして大規模データシステムの自動化、画像処理ソフトウェアの開発をしていました。働く中で、生物系の研究者が高価で使い勝手の悪いソフトウェアを使用し、その結果、研究の進むスピードが遅くなっていることに気づきました。そこで研究者に安くて使い勝手の良いソフトウェア・ハードウェアをオーダーメイドで提供する会社を作ろうと思ったのが起業の決め手です。また,大学1年生の頃から、ロボティクス系のベンチャー企業で働いていたため、起業する環境や雰囲気に慣れていたのも起業のハードルが下がった一因だと考えています。

起業する際、大変だったことは何ですか。

起業すると、すべての物事がゼロからスタートします。採用、給料、オフィス、仕事の時間、仕事の進め方などすべてにおいて、その瞬間での最適解を考えて実行する必要があります。起業した直後は、この状況に適応できていなかったため、精神的な疲労はすごく大きかったと感じます。

自ら起業した会社で仕事をされていて、どんなことが番楽しく、やりがいを感じますか。

外部的には、ユーザーが自分たちのサービスを使い、サービスに対して感謝をくれることがすべてです。ユーザーインタビューの中で、”Great Work!!”と言われたときのすべてが報われた感覚は形容し難いものがあります。内部的には、社内のメンバー同士のコミュニケーションと成果物が流れるように完璧に仕上がった時は何とも言えない高揚感があります。個人的には、社内で開発している機能の研究を進めることが最も楽しく、やりがいを感じます。

 では、今までの経験をすべてひっくるめて、鹿間先輩にとって学びとは何でしょうか

起業してみて強烈に実感したのは、学ぶことは目的ではなくて手段だということです。企業に入ると基本的には分業になります。自分が出来ることはやって、他の人が出来ることは他の人に任せて、他の人がやっていることを自分の中に取り入れて管理することが重要になってきます。だから、自分が学ぶだけではなくて、会社外の人にやってもらうとか、会社の中の別の人に学んでやってもらうなど、別の選択肢が出てきます。それに対して、高校生、大学生の時は、学ぶことが目的化しています。

先をしっかり考えて学んだことは、理解しやすいし深めやすいものです。最近の学びの形は、その方法やツール、場所など、多様化してきたと思います。コロナ禍でオフラインがオンラインになったし、学校へ行かなくても塾でも学べるし、アプリも出てきて英語の学習が音声を伴う形でできるようになったなど、学び方は時代とともに変わっていきます。学びは目的じゃなくて、学んだ先に何をやりたいかや、その知識や技術を使って何をしたいかが大切なので、高校生にとっても学ぶことは手段だと思います。

学ぶことは手段という言葉が心に響きました。続いて、鹿間先輩がなりたい自分像について聞かせてください。

僕は、自分のやってきたことで一瞬しか満たされないタイプの人間です。例えば「プレゼンで頑張りました」とか「こういうことを頑張りました」と思っても、すぐその先の課題が見えてくる、つまり、自分にとってできなかったことや足りなかったことがすぐ見えてきて、また「やらなきゃ」と思ってしまう人間です。何をしても完全には満足できないっていう感覚が常に降ってくるような人間なので、死ぬ直前で自分自身に満足できる人間になれることを目指しています。

今回のインタビューで後輩たちに何を一番伝えたいですか。

自分が今やっていることのプラスアルファをやってみてほしいなっていうのが、全てかなって思います。それしか人間やれることがないので、とにかく今自分が無意識にやっていることから意識的にプラスアルファを1回だけでもいいからやってみるっていうのが、ぜひやってほしいことです。

最後に、新しく筑坂に入学する生徒に贈る言葉をお願いします。

自分が信頼できる先生を見つけてください。困っている時に頼りになる人って絶対先生なので、自分が信頼できる先生を1人でもいいから、見つけてください。僕は数人いましたけど、信頼できる先生を早く見つけてほしいと思います。

 

<<インタビューを終えて、進路委員の感想>>

自分の趣味や興味をしっかり持って入学すると、やりたいことを多くやることができると感じました。(2年 宇津木)

鹿間先輩の実体験によって培われた認識の変化がインタビューで伝わってきました。自分のこれからを模索するには何をすればいいのかとただ考えるだけではなく、とにかく行動を起こすことが大切なのだと感じました。さらに、困難に直面して方法や場所が通常通りではなくなっても、やることは同じだということを肝に銘じて頑張っていくことが大切だと思いました。                        (2年 髙波)

今回、進路委員会で鹿間先輩にインタビューさせていただいて一番印象的だったのが「勉強することが目的ではなく、目的を達成するための手段の一つが勉強」というお話です。私自身、勉強すること自体が目的となってしまっていたため、テストの点数や順位で落ち込んだり喜んだりしていました。しかし、何かの目的を達成するために勉強することで、勉強することを楽しめるのかなと思いました。今回のインタビューは様々なことの考え方に変化をもたらすきっかけとなる良い機会になりました。今後、進路について考える際に活かしていきたいと思います。鹿間先輩、ありがとうございました。(2年 飯塚)

今回、初めて筑坂の卒業生の方の話を聞くことができました。普段の生活のままでは卒業生の方にインタビューをする機会なんて無かったと思うので、今回のインタビューで自分が気になっていたことを聞けて良かったです。鹿間先輩の話は聞いていて自分のためになる話が多く、鹿間先輩の考えを聞くことで自分の進路に対する考え方が変わった気がします。自分とは学習分野に違いがあっても同じ考えがあったり、逆に自分が思いつかないような考えが聞けたりしてとても楽しかったです。また機会があったら、インタビューに参加させていただきたいと思いました。(2年 武田)

私は、今回のようなインタビューはこのインタビューが初めてだったので、とても緊張していたのですが、今回インタビューさせていただいた鹿間先輩がとても接しやすい方で、いつの間にか緊張も忘れて真剣にインタビューに臨むことができました。これから社会に出ていくことになる私たちにとってとてもためになる話をたくさん聞くことができ、インタビューという今までになかった経験もできたので良かったです。(2年 原)

私も工学システム・情報科学やAIに興味があるので、今回の鹿間先輩の話はとてもためになりました。また、私も大学に行きたいので、今回の入試方法や対策の話を聞けて大変参考になりました。(2年 大江)

鹿間先輩のお話を聞いて、将来を考える上で「自分の価値観」を大事にすることが大切なのだとわかりました。自分が絶対に外せないことは何か、今の自分に必要なことは何かなど、常に自分に問いかけ、自分の価値観を尊重しながら生きていくという生き方にカッコよさを感じました。私も自分の価値観を尊重した行動選択を今後していきたいと思いました。どれも為になるお話ばかりでとても貴重な時間でした。ありがとうございました。(2年 嶋)

興味深いお話、ありがとうございました。今回のインタビューを通して、進路を考えることは自分自身と向き合うことだと実感しました。鹿間さんはすべての質問を回答するにあたり、自らの立場を明確にした上で、瞬時に自己表現をなされていました。自分自身を客観視しつつ、自分はどういう人間なのかを語る姿を見て私は敬意を表したいと思いました。なお、私も今後に向けた進路選択において、自分を理解することに努めていこうと思いました。(2年  榎本)

学校の授業外で卒業研究に取り組んでいたと伺い、高校生活でできる最大限のことを行っていたのだと思いました。また、時間には限りがあるという言葉が印象に残り、進路に向けた活動をする上で物事に優先順位をつけることの大切さを感じました。さらに、大学3年生の時に仲間とともに起業し、大学を卒業した今も実際にその企業の経営に携わっていると伺いすごいなと思いました。貴重なお話をありがとうございました。(2年 山崎)